藤元健太郎のフロントライン・ドット・ジェーピー

2000年11月2日木曜日

「LookWest」韓国に学ぶべきIT政策。日本に求められる「ITビッグバン」

(2000年11月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました)

■日本を抜き去った韓国
アジアでもっともトラフィックの多いWebサイトをご存じだろうか?ある調査サイト(http://www.alexareseach.com/)の結果では韓国のdaum.netというポータルサイトである。日本のyahoo.co.jpは4位であり,韓国のyahoo.co.krが2位である。ちなみにTop10の中で8サイトが韓国であり,残りの1つは台湾のサイトである。全世界のTop10でも3つは韓国サイトである。ご存じの人もいると思うが,韓国のインターネットユーザーは1700万人を越えており,人口4500万人の国なのですでに40%近い普及率であり,日本を追い抜いている(普及率では台湾にも抜かれている)。インフラもADSLが急速に普及しており(現在220万加入を越えている),家庭になくてもPCルームというADSLに接続されたパソコンを利用できるインターネットカフェのようなものが全国に2万件有り,1時間200円ぐらいで利用できる。証券取引は70%近くがオンライントレーディングであり,インターネットゲームではプロリーグまで設立され,プロのゲーマーになった若者は大学に推薦で入ることまで可能であり,世界中からプロのゲーマーが韓国へ移住することまで始まっている。

■IMF危機が韓国のITビッグバン
私は93年からの日本のインターネット商用化を見てきた中で,「いったい日本はこの7年間何をしていたのだろう?」と考えてしまう。ある意味では日本はIT化において完全に抜かれたわけであり,この現実をきちんと検証することは大事なことだと感じている。最近やっと我が国でも政府レベルで具体的なITへの対応の施策が次々と登場しているが,お隣韓国では3年前のIMF危機と呼ばれる金融恐慌で全てが変わった。財閥を中心に大企業が次々と倒産,レイオフを行い,優秀な人材が大量に失業者となって放出された。政府がITにかけた意気込みの違いは想像以上のものであったのだろう。国を救うためにIT・ベンチャー分野に次々と手が打たれた。通信会社は電力会社を参入させるなど,完全に競争環境が整備され,ADSLが競争原理の中で普及している。失業者の創業支援制度,ベンチャー認定されると税金が50%免除になる制度,ベンチャーを入居させると課税優遇されるベンチャービル制度,国の補助金による主婦インターネット教室や学校へのインフラ導入。家賃やネット代が無料で利用できる大量のインキュベーションセンターの整備。郵便積み立てを行うとパソコンを激安で購入できる制度。オンラインだけで証券取引を可能にする法改正など,とにかく国ができることは何でもすぐに行った。その結果が現在の状況である。もちろん韓国も世界的なネット系に対する厳しい評価は例外なく始まっており,株価は低迷している部分もあるが,KOSDAQには数百のベンチャーが上場しており,玉石混合の中でも切磋琢磨が行われている。これらはIMF危機がまさにビッグバンとなり,既得権益が吹っ飛んだ中だったからこそできた改革だったのかもしれないが,政府と民間が一体となってやる気を出せば3年できることを韓国は証明してくれた。

■日本に求められる「ITビッグバン」
橋本政権における金融ビッグバンは金融のメガコンペティションの中で危機感が生んだ政策であった。IT基本法などは評価できるものの,日本のIT政策はとてもゆっくりしており,まだまだ閉塞感の打破や次世代の産業育成のためという趣旨を抜け出していないような感がある。しかし,インターネットとMosaicが登場してすでに7年。7年前からこのネット時評のコラムニストの多くの有識者は「革命が来た!」と叫んでいたはずである。あと3年でAfterWeb10年(Web以前をBeforeWeb,以後をAfterWeb)であり,ドッグイヤーでない時代でも10年は一昔である。今から3年後までのタイムスケジュールの中で,NTT問題,通信放送融合,各種業法の見直し,ベンチャー政策を始めもはや政府の政策は危機意識を全面に出した「ITビッグバン」と命名し,民間の既得権益の退場を予告し,金融ビックバンの時のような国民全体でコンセンサスのとれるような推進力を持つべきだと考える。「LookEast」という言葉があったが,まさに今韓国は日本から見て「LookWest」となっている。

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