藤元健太郎のフロントライン・ドット・ジェーピー

2003年6月12日木曜日

e-Japan2 求められる「構想」から「戦略」的発想

(2003年6月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました)

e-Jpana2の中間報告は2001年に策定されたものに比べると格段に評価できるものになっていると言えるだろう。筆者が昨年7月に本欄で提言させていただいた「e-Japan戦略私案「日本の未来のためのIT戦略」(http://it.nikkei.co.jp/it/njh/njh.cfm?i=20020710s2000s2」にも近い方向性になっている。しかし,筆者は多くの人が評価している「生活者の視点」を重視しすぎた部分が逆に,「戦略」部分を失ってしまったと考える。つまり国家としてITをどう活用して,日本が世界の中でどのよう戦っていくかが,この報告書からは見えてこない。戦略とは国語辞典によると「長期的・全体的展望に立った闘争の準備・計画・運用の方法(三省堂新辞林より引用)」とある。つまり戦うための方法論であり,その方法論により勝利に導かれることを国民が実感できなければ意味がない。
つまり,この報告書は「IT基本構想」としては高く評価できるものの,残念ながら「戦略」としては評価できない。
では戦略として捉えたときに現在日本が闘争しなければいけないこととは何であろうか?筆者は以下のようなことであると考える。

1.自由貿易圏の覇権争いもすすみ,メガコンペティションが加速し,経済的な国際競争の中における闘争
2.地球環境問題に代表される,大量消費,環境破壊社会からの脱皮という闘争
3.低成長・成熟社会でも豊かさを実感できる社会への構造改革という闘争
4.工業化社会から知識情報化社会への大転換への挑戦という闘争

生活者の視点はとても重要であり,今回のアプローチも高く評価できる部分であるが,報告書にある戦略思想でうたっているように生活者が本当に「元気・安心・感動・便利」を実感できる社会を実現するためには当然のごとく,上記の4つの闘争に勝ち抜くことが前提だと考える。そうでなければ生活者の豊かな生活は成立しない中では,どんなに生活者視点をアピールしてもそれは空虚な理想論であり,まったく意味をなさなくなる。何よりも勝ち抜くためにITはどう貢献できるのか?ここがIT戦略においてはもっとも重視される視点だと考える。

そのためには筆者は以下の5つの視点でITを活用する必要があると考える。

A 内需拡大で経済的活力を生み出すためのIT
B ITがより国際競争力を高めることに貢献できる分野
C 地球環境問題に貢献するIT
D 社会的非効率を是正するIT
E 新しい価値創造を行うことができるIT

筆者は戦略的に特に重要なのは以下の3つのパターンであると考える

E×A・・・・新しい価値創造で内需が拡大する
E×B・・・・新しい価値創造で国際競争力が高まる
E×A×B・・新しい価値創造で内需が生まれ,それが世界的な競争力のある産業に育つ

一方報告書にある先導的取り組みの分野を上記視点で整理すると以下のようになる。

医療・・・AD
食・・・・ABCD
生活・・・ABCDE
中小企業金融・・・ABE
知・・・・ABE
就労・労働・・・ABCDE
行政サービス・・ABD

そうすると今回は「生活」,「中小企業金融」「知」「就労・労働」の重みは他の分野よりも高いと考える。さらにここにはでてきていない重みの高い分野としては以下のようなものがあり,

コンテンツ産業・・・ABE
中小製造業・・・・・ABCDE
バイオ・ナノテク・・ABCE
地域マイクロビジネス・・ADE

上記分野はITが貢献する部分も大きく,戦略的重要性からも是非何かしらの形で報告書の中に盛り込んでもらいたいと思うところである。

またもうひとつAからEまでの視点を捉えたときにITが戦略的に貢献するために社会システムとしてのプラットフォームの整備が重要である。例えばITSGIS,金融の各種市場,旅行業界の統一予約プラットフォーム,広告取引市場など各種取引材のマーケットプレイスなどであるが,これは各種のネットワーク基盤とは異なる性質のものであり,報告書の中の「次世代情報通信基盤の整備」で同一で扱われているが,別途分離して,戦略的に民間や公的機関の整備が進むような施策を打ち出すことが望ましいと考える。これらプラットフォームが整備されることで生活が豊かになり,関連産業が広がり,全体システムとして世界的に輸出できる戦略商品になりうるからである。


今回はIT戦略として見ているが,根幹は日本がどのような国を目指すのかという大戦略があった上である。そういう意味ではその戦略がよく見えない中でどんなに優秀な委員の方々を招集しても,IT戦略が描かれることが無いのも無理もない。戦略という言葉を使う以上はもう一度日本がどのように社会的豊かさを実現していくのかを改めて描く必要があり,その戦略の中での日本の構造改革を議論する必要がある。明快な戦略の元であればITは構造改革の強力なエンジンとして使えるはずなのだから。

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