藤元健太郎のフロントライン・ドット・ジェーピー

2004年7月14日水曜日

コンテンツ産業的に見るプロ野球再生の考え方

(2004年7月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました)

ITベンチャーライブドアによる近鉄球団買収提案が話題になっている。ライブドアもITを活用した球団の立て直しを提案しているようでありプロ野球ビジネスに一石を投じている。人気が衰えているとはいえ日本のプロ野球は依然としてキラーコンテンツである。マスメディアの取り上げ方もJリーグよりはまだはるかに大きいし,選手の知名度も大きい。コンテンツとして捉えた時にはまだまだ大きな可能性を持っているだろう。発足当時の鉄道,新聞などの業種が中心的なスポンサーだった頃に作られたビジネスモデル(沿線開発やメディア販売の価値付け)の転換点に来ている現在,コンテンツビジネスの現在の潮流から見た再生の考え方を提案したい。

コンテンツとしての緻密な評価
プロ野球も昔は大映や東映など映画会社もオーナー会社であった時代があったようだが,ある意味そのころの方がコンテンツという意識があったのかも知れない。現在は興行として球場の入場者数とテレビの視聴率という指標でしかビジネス的には判断されていないのではと筆者は考える。もっとコンテンツとしての評価を多様に行うところから球団経営は始めるべきではないだろうか。ハリウッドの映画も現在はかなり細かい調査の上で作られている。どの場面がよかったのか?どの選手のどんなプレーに感動したのか?どこがつまらなかったのか?それはどんなターゲットのファンに響くのか?毎試合ごとにリサーチを行うべきである。ライブドアが提案しているようにブログのようなツールで選手や監督のコメントに対する反応からも貴重なデータはとれるであろう。現在はインターネットによりリサーチはとても簡単になっている。監督は面白い試合よりは勝つために集中しているのだろうから,この役目は球団経営幹部である。ファンが望む試合をするために球団の運営ビジョンを明確にし,それにのっとった監督や選手を集めプレーさせるべきである。面白くするための努力は球場での奇抜なイベントではない。緻密な分析の上での細かい改善努力を行いコンテンツとしての魅力の確認をまず行うべきであろう。

コンテンツファンド手法の適用
コンテンツビジネスの大きな動きはファイナンスの多様化である。リスクを分散化するためにも運営資金を特定の事業会社の広告宣伝費に依存するのも時代遅れではないだろうか。何よりもファンという人々が存在しているのであるから,そのファンに投資してもらうファンドを作ることも可能ではないだろうか。何よりもファンはチームの発展を願っており,利回り額よりもチームがよい試合をし,結果的に成績がよくなることが嬉しいはずである。成績があがれば放映権,球場収入,関連グッズの売上が大きくなり配当額も期待でき,投資のメリットも倍増する。さらに権利として無料招待や選手とのイベント参加,インターネットでのコミュニケーションなどがあれば,それだけで満足するファンもいるはずである。そうしたファンからのファンドで球団運営の一部をまかなうことで,一部のオーナーが個人の所有物であるかのごとく振る舞う行為も無くなるだろう。ファンから球団の運営資金を募る考え方はプロ野球には適しているはずである。何よりも投資していればファンなのについつい球場から足が遠のいているファンも球場へ行く回数は増えるはずである。投資家と事業者との関係が利回りのことだけ考えることで,現在の資本市場が忘れかけている投資の本質がここにはあり,金儲けだけ考えるディトレーダーではない,本当の意味での投資対象に共感を持ち,現在のIRのような片方向ではない,コミュニケーションを行う個人投資家を育てるための,とてもいい土台にプロ野球がなる可能性を秘めているとも言えないだろうか。

アジア市場へのキラーコンテンツ

現在のオーナー会社の新聞,鉄道は国内産業であり,日本市場を中心にしか見ていない。しかし今後の日本の産業構造からすれば現在のアニメやJ-POPのようにアジア市場での付加価値の高いブランディングができるコンテンツはとても重要にある。例えば韓国,中国,台湾などとのアジアリーグが可能になり,日本選手が活躍すればその価値はとても大きいものがある。例えばSHINJOがアジアのスターになり,中国で10人に1人が知っている選手になったとしたらその価値はとてつもないものだろう。そうなれば家電メーカーや食料品メーカーはこぞって日本球団のスポンサーになりたがるだろうし,プロ野球の価値は大きなものになる。すでに大リーグのアジア選手増加やサッカーのレアルマドリードなどの戦略はそうしたアジア市場を見据えてのものだと言われている。
何よりも東京ドームの中継が中国に衛星もしくはインターネット中継されるようになれば,そのスポンサー枠の魅力は現在の巨人戦の比ではない。


内向きに既得権益を守ろうとする現在のプロ野球の球団関係者の姿は,まさに護送船団方式で来た多くの日本産業界そのものを見ているようである。現在の収益を守ることを考えていてもイノベーションは起きない。2倍,10倍にすることを発想した時,始めてイノベーションは起きる。プロ野球界に必要なのは,そうした外部の発想力に今こそ耳をかたむけることだろう。

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