藤元健太郎のフロントライン・ドット・ジェーピー

2005年12月7日水曜日

ローカルサーチが生み出すマイクロビジネスの可能性 -地域情報化のあらたなるアプローチ-

(2005年12月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました)


○グーグル登場のインパクト
グーグルが次から次へ繰り出すサービスが話題になっている。今やマイクロソフトの最大のライバルと目されるグーグルはかつてのネットスケープやAOLというアプリケーションやISP,コンテンツサービスを提供する企業と異なり,莫大な知識情報の流通業として,世界中のあらゆる情報の流通ハブとなりつつある。そしてその集積させた情報と検索された情報をマッチングすることで,これまで情報の非対称性が大きかったことで起きていたパレートの法則と呼ばれる「商品は2割の売れ筋が全体の利益の8割を稼ぐ」という法則を壊し始め,「ロングテール理論」と呼ばれる今まで死に筋に近かった8割(ABC分析などでグラフにすると長い尾のようになるのでロングテールと言われている)の商品でもビジネスが成り立つようになってきている。例えばグーグルにはアドワーズという広告商品があり,自分の商品に関係するキーワードを成果報酬で購入できるのであるが,たった1万円の予算でも地方の小さな鯖寿司や仏壇などがインターネットで検索した人からの注文で商売が成り立つ効果を出している。
これはグーグルのような検索エンジンが情報流通の最適化を実現したことでマイクロビジネスが集積することでビジネスになることを示している。
そうしたグーグルがさらに大きなインパクトを持って提供を始めたサービスが世界中の地図情報を提供するグーグルマップとそれを応用したグーグルローカル(http://local.google.co.jp/)である。これまで一部の特別な企業でしか利用できないと思っていた地図や衛星写真を,誰もが自分の机の上のパソコンで簡単に利用できるようになったことだけでも驚きであったが,それがAPIとして公開され,インターネット上で誰もが自分のサービスやアプリケーションに利用できるようになっていることがより大きな衝撃を与えた。実際日本の企業やベンチャーがこれを自社のサービスに取り込んで活用したサービスをすでに提供し始めている。これまでGIS地理情報システム)というのは膨大なデータベースを構築するため大変なコストと時間がかかるものであったが,インターネットらしく多くの人々がGoogleの用意したプラットフォームで参加し合いながら構築していくというアプローチがあり得ることを現実的なものとして示してくれたと言えるだろう。同じくGoogleGooglePrint(http://print.google.com/googleprint/library.html)という図書館の書籍をデジタルデータ化し,検索できるサービスも提供し始めているが,これらのグーグルが行っている動きは従来は官公庁なり第三セクターが担うという発想が中心であったと思われる。しかし外国の一民間企業が日本でもサービスをできてしまっている事実が,新しいインターネット時代の情報流通プラットフォームの作り方の発想転換に大きな目を開かせてくれている。

○地域経済活性化のためのローカルサーチ
地域の小さな企業がグーグルのような検索エンジンのおかげで大都市圏の人達にビジネスができる環境はすでに生まれているが,グーグルローカルのような地図データと組み合わせたサービスの利用はやはり地元中心であると言えるだろう。地域にどのような資源があり,どんなサービスがあるのか,ひとつひとつは小さくても集積することで利用効果もあがり,ビジネスのスケールも生まれるのがロングテールの時代である。A9(http://yp.a9.com/)というアマゾンが提供している検索エンジンでは全米主要都市の街の通りのデータも蓄積しており,目的の会社を探すとその通りに他にどんなビジネスがあるか,風景はどうなのかを知ることもできる。国内にもベースになりうるデータはすでに存在している。タウンページが提供しているiタウンページ(http://itp.ne.jp/)は実に8000もの業種から検索することが可能で,「からし蓮根」など地域密着の特産と呼ばれるようなビジネスから街の中華料理屋までも調べることができる。確かにもともと紙の電話帳時代から地域のライフライン情報がのっており,引越屋とか鍵屋などマイクロビジネスの人々には重要なメディア(一番最初のページや目立つところ奪うために社名をAやアにしたりある意味SEOもやっていた)であったわけでインターネットにのることでその活用可能性は数倍にもなっていると言えるだろう。
このようにローカルデータは新しい地域の公共財と言え,ひとつのサービスだけでなく,これらを様々なに利用できる形で環境整備することは産業振興の観点からも重要である。しかし,これまでも税金や補助金などで創られた活用されない死蔵しているデータベースは全国に多数存在している。これからはプラットフォームになりうる公共財の構築の仕方は民間企業と多くの地域ベンチャー,一般市民の協業により,官に可能な限り依存しない方法論が必要になる。  

大規模な工場誘致の時代が去った今,多くの小さなマイクロビジネスを多数生み出すためにも図書館に本を集積させるのでなく,インターネット上で様々な形で再利用可能な状態で地域情報を集積させ,全ての人が様々なニーズで検索できる状態を構築することが知識社会における産業集積のモデルのベースと言えるのではないだろうか。

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